ヒロ・ホンシュク&ハシャ・フォーラ『HAPPY FIRE/NEW KIND OF JAZZ』 ジョージ~マイルス~ヒロの円環を感じさせる新作
text:淡中隆史
intoxicate 2017 October
ボストン在住、NYCなどを中心に活動するヒロ・ホンシュクのバンド〈ハシャ・フォーラ〉(Hiro Honshuku’s Racha Fora)の第3作、国内では前作 『Racha S’Miles』に続く2作目のアルバムだ。冒頭の 《ナルディス》(マイルス・デイヴィス)でのアグレッシブなアレンジ、演奏に圧倒されるが、続く《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》、《イン・ア・センチメンタル・ムード》などのジャズ・スタンダードと彼のオリジナルで構成されており、アルバム・タイトルの 《ハッピー・ファイアー》では次々と独自の音楽が明かされていく。
ホンシュク (fl, EWI)、リカ・イケダ (vn)がダブル・フロント、ギターのアンドレ・ヴァスコンセロスとカホン+パーカッションにハービー・ウイルトあるいはセバスチャン・“Cバス”・チリボカを加えた「2+2」という特殊な編成でベース、ドラムスは無い。絶え間なく鳴るカホンとパーカッションがブラジルの様々なリズムを構成、時に〈アガルタ期〉のマイルスを思わせるギターがフロントと響き合う時にすでに素晴らしくシュールな音像が展開され、耳に親しんだナンバーも全く新鮮に聴こえてくる。9曲目に配された美しい《ネゥウン・タゥヴェス》(エルメート・パスコアール)がこのアルバムの大きなキーとなる。エルメートはマイルスの『Live-Evil』(1970)に参加、この曲と《リトル・チャーチ》を提供、後のボックスセット『The Complete Jack Johnson Session』ではさらに4つの別トラックが発表された。ホンシュクはこの曲に洞察に満ちた〈楽曲解説〉を発表している (www.jazztokyo.org)。これは彼が演奏家、研究家としてどのジャンルにも属さない〈異形の天才〉を見事に解明するもので、エルメートへの理解と愛は通常 の〈ジャズ研究〉を大きく超えたものだ。
ホンシュクは1987年にニューイングランド音楽学院に入学後、ジョージ・ラッセルのアシスタントとなり、後にアシスタント・ディレクター、〈リヴィング・タイム・オーケストラ〉のメンバーを務め、独自の作曲方法リデアン・クロマティック・コンセプトの実践的経験を持つ唯一の日本人アーティストとも言える。ラッセル~マイルス~エルメート~デイブ・リーブマンなどの系譜とブラジル音楽という本来アブストラクトな要素の見事な融合が〈ハシャ・フォーラ〉で達成されている。
スリリングで新たな発見に満ちたアルバムだ。2015年の〈東京JAZZ〉では見事なステージを見せていたが、今年10月からの来日ツアーではレコーディングと同じメンバーでのステージが期待される。