World Music Report、ハシャ・ス・マイルス評

Published Date: Sunday, March 6, 2016
Go to source:

ヒロ・ホンシュクのマイルスへの思いは深い。マイルスの1958年録音、『マイルストーンズ』からうかがわれるように、この偉大なトランペッターは、音楽的に影響力が強かったジョージ・ラッセルのリディアン・クロマティック・コンセプトを早くから導入していた。ホンシュクはラッセルのもとでリディアン・クロマティック・コンセプトを掘り下げて学んだ。1987年にマイルスのコンサートに遭遇し、ショックを受けた後熱心な研究者となった。反面このフルーティストはブラジル色に染まっている。アメリカや日本でソウルフルなブラジル音楽を演奏し続けており、このアルバムからそれがわかる。よって、ホンシュクがマイルスにトリビュートするアルバム制作を決意した時、当然今まで聞いたことがなかったような道を選んでおり、サンバ、マラカトゥ、アフォシェ、バイヨンなどにリディアン・クロマティック・コンセプトをミックスしている。趣旨を聞いただけでワクワクする。

『ハシャ・ス・マイルス』は完璧に新鮮で、胸を突くような興奮をもたらす。カーニバルが目の前を進むような光景を、息を止めて眺めるような状態に聴き手が陥っても不思議ではない。12曲中6曲がマイルスの曲、2曲はウェイン・ショーターがマイルスバンドに書いた曲、そして4曲がホンシュクのオリジナルだ。ただし聴き慣れたマイルスの名曲などを期待してはいけない。まずハシャ・フォーラはブラジルバンドで、トランペットも参加していない。バンドからはブラジルのサウンドがするかも知れないが、オリジナリティと言う名の教会の祭壇に君臨する。このアルバムはあのデイブ・リーブマンをゲストに迎えているのも忘れてはいけない。しかし、だ。

このアルバムのリードボイス、いや、共同リードボイスと言うべきか、リカ・イケダの衝撃的なバイオリン。マイルスのしゃがれた声がこの驚異的にタレントがあるバイオリニストから聴こえてくる。イケダの唸るバイオリンからマイルスの強烈な皮肉や、手足の長い獣が襲い掛かるようなマジックが聴こえてくる。マイルスのラインを強調するアプローチに向けて、彼女はダブルストップを避けているかのようでもある。しかしバイオリンはトランペットではない。だからイケダは煌びやかなグリッサンドや超絶技巧アルペジオなどを配し、その合間にマイルスが気軽に入れるだろうフレーズなどを融合させる。さて、これに加えて強力フルーティスト、ヒロ・ホンシュク。パガニーニの霊に取り憑かれたような技巧で吹きまくる。そして『マイルストーンズ』、『ソーラー』、『ウッド・ロー』デイブ・リーブマンと繰り広げる壮大な掛け合い。とびきりのクラシックの誕生である。

マイルス・ディビスはお決まりの演奏を許さなかった。マイルスが発した格言は、「たった一つ決まっていることがあるとすれば、それは、生きると言うことは変わり続けるということだ」。ただしマイルス自身はマイルス・サウンドを持っていた。それは崇高孤独かつ皮肉がしたたった、時には怒りに混じった、しかし痛むほどの喜びに満ちたトランペットだ。『ハシャ・ス・マイルス』はこれを想わせる。空上で行われているようなブラジルのステップをもたらすハシャ・フォーラのサウンドは深い喜びをもたらすが、その空上のブラジルのサウンドが哀愁をも現す。ただしこのアルバムではマイルスへの思いがその哀愁にとって変わる。もし目を閉じ、心からこのアルバムのサウンドに聴き入れば、ひょっとしたらマイルスの霊がモコモコと目の前にせり上がるのが感じられるかもしれない。

By Raul da Gama

Track List: Milestones; E.S.P; Blue in Green; Feather Roux; Chicken Don; Door 8; Solar; All Blues; Circle; Seven Steps to Heaven; Wood Row; Footprints.

Personnel: Hiroaki Honshuku: alto flute, piccolo & EWI (2, 11, 12), coice (7); Rika Ikeda: violin; Mauricio Andrade: nylon string guitar; Rafael Russi: bass & voice (1, 3, 4, 10); Benhur Oliveira: pandeiro, cajón, tamborim, ocean drum, voice (10); Special Guest: Dave Liebman: soprano saxophone (1, 7, 11).

Label: Jazz Tokyo
Release date: October 2015
Website: rachafora.com
Running time: 51:37
Buy music on: amazon